細雪(1983)

大阪船場の船問屋・蒔岡家の四姉妹、鶴子(岸恵子)・幸子(佐久間良子)・雪子(吉永小百合)・妙子(古手川祐子)を描いた、谷崎潤一郎の同名の小説が原作の映画です。戦争直前の阪神間モダニズムが優雅であり気品があったことがうかがえます。毎年家族で嵐山に花見に行く習慣がある洗練された生活。ひとことあえて言うなら、戦前日本における価値観の変化と「家」のプライドの相克である。(もちろん、谷崎は優雅さに郷愁を感じていたのだろう。)


長女・鶴子は今は上本町に住んでいる本家であり「家」にプライオリティを置いている。しかし、「家」自体はかつてほどの隆盛を誇るわけでもない。鶴子の養子の辰雄(伊丹十三)は銀行員であるサラリーマン。 芦屋に住む次女・幸子家族は分家であり、夫・貞之助(石坂浩二)も呉服(百貨店勤め?)を商っている。雪子・妙子も本家の因習を疎ましく思い、芦屋に身を寄せている。
一家の目下の課題は30を過ぎてもとつがない雪子の縁談である。お見合いを何度も重ねてもまとまらない。幸子夫妻は奔走して相手を探すことになる。(貞之介は谷崎自身がモデルであるらしいのでかっこよく描かれすぎである)
現代的な妙子は貴金属を商うぼんくらの奥畑(桂小米朝)とかつて駆け落ちをしたほどの仲である。が、いかんせん姉が嫁がないことには自身の結婚まで認めてもらえず、かつて奥畑家で丁稚奉公していた写真屋の板倉(岸部一徳)にも恋心を寄せる。あほのぼんぼんの奥畑のキャラが役にぴったりだ。

一番の不幸は板倉の身に起こる災難である。このことは身分の違いが認められないことを示唆しているかもしれない。映画では描かれなかったが、原作にある夙川の大洪水の妙子を巡る奥畑と板倉のエピソードは悲劇的だった。

この映画が失敗でない理由のひとつは雪子の結婚相手となる華族で航空学をアメリカで修めている東谷(江本孟紀・エモヤン)にセリフを与えなかったことだろう。

谷崎の女性観や美意識が巧妙に映像化されていると思います。「「また、大阪か」と思う人には是非原作か映画を見てもらいたいです。

細雪 [DVD]

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